「最近落語にご執心なようで」と話を振られることが多くなりました.
たしかに落語ネタをつぶやくことが多くなってますが,落語は私の趣味の中では一番古いのですよ?でもまぁ冬アニメの「昭和元禄落語心中」のアニメ化を契機にようやく落語ネタを出せる雰囲気になってきてありがたく嬉しく思う今日この頃.落語心中も私の予想をはるかに上回る出来で完走し,既に決まっていたかのように第二期制作発表で,まだまだ楽しみが続くようで嬉しい限りです.
でも今日は落語心中の話題ではありません.「異世界落語」の紹介です.
「異世界落語」というのは「小説家になろう」という小説投稿サイトに投稿されているネット小説で,これが面白いんですよ.
小説家になろう「異世界落語」ページへ
『世界を救う為、救世主を召喚せよとの命を受けた。
だが、ダマヤが手違いで召喚したのは「ハナシカ」だった。
これは、一人の噺家が落語で世界を救う物語である。』
という導入のごとく,異世界へ召喚された噺家が落語を用いてたちまわる物語.
舞台となるのはターミナルというファンタジー世界のサイトピアと言う国.魔族やエルフやドワーフなども居るいわゆる西洋ファンタジーの世界です.言葉こそ日本語と同じだけれど人種も文化も風習も全く異なる世界に一人のハナシカ「ラクラクテイイップク」がキモノと座布団一枚だけで放り出されます.どこか気楽なハナシカは,とある食堂でエルフとドワーフの諍いに出くわし,仲立ちにとテーブルに座布団を敷き,ラクゴを語りはじめて・・・・・・.
異世界転生ものって言っても私は詳しくは知りませんが,その世界になかった要素を使って主人公が無双をするという俺TUEEE系らしい導入なんですが,だけど持ち込まれるその世界になかった要素というのがラクゴ.ハナシカがもたらすラクゴ.魔族に滅ぼされようとしていた国にラクゴが持ち込まれるなんて,どないせえっちゅうねんと言いたくもなります.
が,これが面白いんですよ.異世界と落語なんてどんなゲテモノだと舐めてかかっていたのに一章を読んで全面的に土下座したくなった程に面白い.当然,話には落語が絡んでくるのですが,落語の原題や手法に頼ることはなく,きちんとオリジナルの話として作られていますし,テキストもとても読みやすく場面描写も良く伝わってくるし会話やテンポも軽快で面白いと,凄く読み応えがあります.投稿小説など読まないので,ほかの小説のクオリティなんて知りませんが,良くできていると感じられました.
各章が5~10話程度で一つの章が作られていて,だいたいひとつの章にひとつの落語ネタが取り上げられており,タイトルに盛り込まれています.例えば第一章の「クロノ・チンチローネ【時うどん】」は,チンチローネと言う異世界の麺類を使って落語を組み上げるお話.原題として上方落語の「時うどん」を借りています.二章の「ソードほめ【こほめ】」は「こほめ」を原題に異世界での騒動を描くお話.他にも「寿限無」「まんじゅう怖い」「延陽伯」「天狗裁き」などなど有名な落語ネタを絡めながら物語が進んで行きます.と言っても原題の寄与度は各章まちまちで,がっつり絡んで来るのもあればそうでないものも様々.いずれにしても,原題ありきの物語ではないので,落語を知らない層でもまったく問題なし.原題の説明は物語の中や後書きで成されているので,むしろこの小説を読んで落語に興味を覚えるような落語への導入にもなりえる作品でもあるでしょう.
私は普段から落語を聞いている人間なので,ほとんどの原題を既知の状態で読みましたが,知っているだけ頷ける部分も多くてなおさら面白いんですよね.例えば一章のクロノ・チンチローネ.喧嘩の仲裁にと酒場で突然始まったラクゴ.ラクゴを知らない群衆を前にして,麺をすすった瞬間にどよめきがわき上がる,なんて落語会に行けばよくある光景なので,ニヤリとしてしまうこと受け合い.それに対する反応が,袖に隠し持ってるんじゃないかだの魔法で麺を召喚してるんじゃないかだの,何ともファンタジックな反応でこのギャップも面白くてたまりません.
ファンタジー世界ではありますが,落語を知らない人がはじめて落語に触れた感想という意味ではどちらも同じ.新鮮な驚きと笑いがその場を満たしていく空気感のようなものが,しっかり描かれています.異世界であるギャップと取り混ぜられてなんとも不思議な感覚にも陥りますが,そんな空気を自分の実感を伴って読める幸せと言ったら他にありませんね.作者の朱雀伸吾という方は元落研(オチケン=大学などの落語研究会のこと)の人だそうで,実際に作者の経験も含めて描いているのでしょう.
これは文句なしにお勧めできます.落語が好きでもそうでなくとも,知っていても知らなくても関係成しに楽しめること受け合いですので,是非とも読んで見て下さい.一章のことしか触れていないけど,続く章も面白いんだ,もう「ちりとてちん」のくだりとか,「だんじり狸」や「天狗裁き」なんて思い出しただけでも胸が熱くなるんですよ,これが.このネット小説がどれだけの知名度のものなのか分からないですが,ランキングではそんなに高くないようで,こんな良い作品が埋もれているのは非常にもったいないと思います.登場人物の名前さえなんとかなってたら普通に書籍化してても良いと思えるんですが,そこのところどうなんでしょう?
やっぱりこうなると,原題で使われた落語を生で聞いてみたいですね.特に「だんじり狸」.これを除いて他はみんな古典落語なので落語会に通っていればそのうち聞く機会があるだろうし,音源でも聞くことが出来るんですが,「だんじり狸」だけは別.これは上方の落語作家である小佐田定雄先生の早い頃の新作落語だそうで,まずお目にかかれない珍品.これは是非とも聞いてみたい.これを聞くために「異世界落語」の演目を聞く落語会を主催することもやぶさかではないんですが,賛同してくれる方は少ないだろうかね?人数集まるなら全然動くんですが.
web小説「異世界落語」が面白い
コメントをどうぞ